東京高等裁判所 昭和42年(う)599号 判決 1967年10月17日
控訴人 原審検察官
被告人 榛葉峰男 弁護人 藤本猛
検察官 内田実
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役壱年に処する。
原審における未決勾留日数中参拾日を右本刑に算入する。
押収してある運転免許証壱冊(東京高等裁判所昭和四二年押第二〇一号の一)は、これを没収する。
理由
本件控訴の趣意は東京高等検察庁検事横溝準之助提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用する。
所論(量刑不当の主張)に対する判断に先立ち、職権によつて原判決の事実認定及び法令適用の当否を調査すると、原判決には、以下に指摘するような瑕疵のあることが認められるが、いずれも判決に影響を及ぼしていることが明らかではないと解せられるから、これを以て判決破棄の理由とはしない。
一、原判決は、罪となるべき事実第一、(一)として、被告人は行使の目的をもつて、昭和三十八年五月下旬頃、その所持する真正な静岡県公安委員会作成名義の被告人に対する第一種原動機付自転車についての運転免許証のうち第一種免許欄の部分を切り取つた上、その頃拾得所持していた他人の自動車運転免許証から切り離した第一種免許欄の部分(「大型免許36・8・7静岡県公安委員会、三輪免許35・4・8静岡県公安委員会」と記載されているもの)をほしいままに前記被告人の運転免許証(第一種免許欄を切り取つたもの)にセロテープで貼り継ぎ、もつて静岡県公安委員会作成名義の被告人に対する大型免許及び三輪免許についての有印公文書二通の偽造を遂げた旨認定し、二個の公文書偽造罪の成立を認めている。ところで、自動車運転免許証(以下、単に免許証という)は、これに被免許者として表示されている者が公安委員会から特定の種類の運転免許を受けていることを証明する文書であるが、道路交通法第九十二条第一、二項が「免許は、運転免許証を交付して行なう。この場合において、同一人に対し、日を同じくして第一種免許又は第二種免許のうち二以上の種類の免許を与えるときは、一の種類の免許に係る免許証に他の種類の免許に係る事項を記載して、当該種類の免許に係る免許証の交付に代えるものとする。免許を現に受けている者に対し、当該免許の種類と異なる種類の免許を与えるときは、その異なる種類の免許に係る免許証にその者が現に受けている免許証に係る事項を記載して、その者が現に有する免許証と引き換えに交付する。」と規定している律意に徴すれば、免許証は本来免許の種類を異にするごとに各別に作成交付されるべき性質のものであつて、二以上の種類の免許に関する事項を一通の運転免許証に記載するのは、免許証の携帯の便宜、免許証作成手続の簡素化、二以上の種類の免許を受けた者の有する免許証の有効期限の統一及び更新手続の一元化等の要請に則応するため、特に認められた便宜上の措置にほかならないものと考えられる。従つて、免許証に存する免許に係る事項の記載は、当該免許証中の免許証交付年月日、免許を受けた者の本籍、住所、氏名及び生年月日等、各免許事項に共通する記載と相俟つて、免許の種類の異なるごとに夫々一個の公文書を成すものと解すべく、原判示第一、(一)の如く、第一種免許欄に大型免許と三輪免許との二種類の免許に係る事項の記載のある免許証を偽造した場合には、二通の公文書を偽造したこととなるから、原判決が右所為を二個の公文書の偽造と認定したことは、もとより正当であるけれども、押収してある運転免許証(東京高等裁判所昭和四十二年押第二〇一号の一)を検すれば、被告人が他人の運転免許証から切り離して自己の運転免許証につなぎ合わせた原判示の如き記載のある第一種免許欄部分は、免許証の表紙と裏表紙との間に存する三つ折りとなつた運転免許証用紙の最後の一片であつて、これを用いて原判示方法により偽造を完成した被告人の所為は、自然的な行為それ自体としては一個と目すべきであるから、結局本件第一の(一)の犯行は一個の行為で二個の公文書偽造の罪名に触れる場合にあたるものと認むべきである。しかるに、原判決はその法令適用の部において、原判示第一、(一)の所為に対し単に該所為は刑法第百五十五条第一項に該当する旨適条したに止まり、同法第五十四条第一項前段の規定を適用した形跡がないので、この点において原判決には法令の適用を誤つた違法がある。しかし、右は、所詮は同法第百五十五条第一項に該当する科刑上の一罪として処断さるべきものであり、原判決もこれを同条同項の一罪として処断している趣旨が窺われなくはないから、叙上の違法は判決に影響を及ぼしていることが明らかではない。
二 原判決は、罪となるべき事実第一、(二)として、被控訴人は前記偽造にかかる運転免許証に記載されている有効期限が経過したので、これを有効期間内のもののごとくに仕做して行使しようと企て、昭和四十一年九月二十七日頃、該免許証に交付年月日として昭和38年4月21日と記載されている文字を原判示の如き方法により昭和39年4月21日と、有効期限として昭和41年4月20日と記載されている文字を前同様の方法により昭和42年4月20日と夫々ほしいままに書きかえ、以て昭和三十九年四月二十一日交付、昭和四十二年四月二十日まで有効期限が存する如き外観を有する前記公安委員会作成名義の被告人に対する自動車運転免許証の交付年月日及び有効期限に関する有印の公文書一通の偽造を遂げた旨認定している。しかし、免許証に存する交付年月日及びその有効期限の記載は、当該免許証の効力(免許自体の効力ではない)の存続期間を表示するものとはいえ、そもそも免許証は、これに被免許者として表示されている者が公安委員会から特定の種類の運転免許を受けていることを証明する文書であることは前叙のとおりであり、また、免許証の有効期間の更新を受けなかつたときは、免許自体が失効する(道路交通法第百五条参照)ことにかんがみても、免許証に存する交付年月日及びその有効期限の記載は、免許証本来の証明の目的たる被免許者及び免許に係る事項と無関係のものでは有り得ず、これらの事項を離れて交付年月日及びその有効期限の記載がそれのみで独立の証明力を備えた公文書としての性格を有するものとは到底解せられないのであつて、むしろ被免許者及び免許に関する事項欄の各記載と一体をなして証明の用に供せられるものと見てこそ始めてその記載の意義が認められるものであり、要するに免許証に存する交付年月日及び有効期限の記載は免許証という一個の公文書の一部に過ぎないものと解すべきものなのである。しかるところ、免許証に表示されている有効期限の経過後において該免許証に存する交付年月日及び有効期限の記載を改ざんして、該免許証が有効期間内のものであるかの如き外観を作出した場合には、従前の免許証とは全く異なつた証明力を有する新たな免許証を偽造したものにほかならないから、右改ざん前の免許証が真正なものであると偽造にかかるものであるとを問わず免許証全体の偽造をもつて論ずべきであり、また、既に説示したとおり、該免許証に二以上の種類の免許に係る事項の記載のあるときは、その免許の種類の数に応じた個数の公文書偽造罪が成立するものと解すべきであるから、被告人が原判示第一、(一)の犯行によつて偽造した大型免許及び三輪免許についての運転免許証を素材とし、これに表示されている有効期限の経過後において、原判示第一、(二)の如く各免許事項欄の記載に共通する交付年月日及び有効期限の各記載を改ざんして、現に有効期間内の免許証であるかの如き外観を作出せしめた所為は、茲に新たな大型免許及び三輪免許についての運転免許証をそれぞれ偽造したことに該当する(なお、右は一個の行為で二個の公文書偽造の罪名に触れる場合にあたる)ものといわねばならない。してみれば、被告人が原判示第一、(二)の犯行によつて偽造した公文書の内容及びその個数に関する原判決の事実認定、延いては、単にこれを刑法第百五十五条第一項に問擬し、同法第五十四条第一項前段の規定を適用しなかつた原判決の法令の適用に過誤のあることは明らかである。しかし、右の誤認は同一構成要件の範囲内における犯罪の態様に関する誤認にすぎず、しかもそれは証拠によつて認定された前法律的事実に対する法的評価の誤りに基因するもので、所詮は刑法第百五十五条第一項に該当する科刑上の一罪として処断さるべきものであり、原判決もこれを同条同項の一罪として処断しているものと解せられるから、右の瑕疵は判決に影響を及ぼしていることが明らかではない。
三 次に、原判決は、罪となるべき事実第一、(三)として、被告人が昭和四十一年九月二十八日中島忠保に対し原判示第一の(二)記載の偽造自動車運転免許証を真正に成立したものとして提出して行使した旨の事実を認定した上、法令適用の部において、「判示第一の(三)の偽造有印公文書行使の各所為はいずれも同法一五八条一項に、--該当するが、判示第一の(三)の偽造有印公文書の一括行使は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であり、判示第一の(一)(二)の有印公文書の各偽造と同(三)の各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、刑法五四条一項前段、後段、一〇条により、以上を一罪として犯情の最も重い偽造有印公文書行使罪の刑を以て処断する」と説示している。ところで、原判決の認定したところによれば、被告人が原判示第一、(二)の犯行(以下、これを第二次偽造行為といい、原判示第一、(一)の犯行を第一次偽造行為という)により偽造した公文書の個数は一個というのであるから、その行使だけでは一括行使ということは考えられない。そこで、原判決の前記法令適用に関する説示から推測すると、原判決は、中島忠保に対する被告人の前示偽造運転免許証の提出行為を目して、第二次偽造行為により生じた偽造公文書の行使のみならず、さきの第一次偽造行為により生じた各偽造公文書の行使にも該当するものとなし、その趣旨を表現するために一括行使なる用語を用いたものの如くであり、且つ、その故にこそ原判示第一、(一)の公文書偽造罪と原判示第一、(三)の偽造公文書行使罪との間に手段、結果の関係があると判断したものと認められる。しかしながら、被告人の第一次偽造行為によつて生じた各偽造運転免許証は、その後これに表示された有効期限の経過後において、被告人が右免許証を素材として第二次偽造行為を敢行し、従前のものとは全く別個の証明力を有する新たな運転免許証の偽造を遂げたことにより、爾後法律上偽造公文書としての存在を失つたものというべきであるから、第二次偽造行為後に右の新たな各偽造運転免許証を行使しても、それは単に第二次偽造行為によつて生じた各偽造公文書の行使罪を構成するにとどまり、第一次偽造行為によつて生じた各偽造公文書の行使罪を構成するいわれはない。従つて、原判示第一、(一)の各公文書偽造罪と同第一、(三)の偽造公文書行使罪との間に牽連犯の関係があるものとすることは許されない筋合いであり、両者は併合罪の関係にあるものというほかはないのである。ひつきよう、原判決は、既に指摘したように第二次偽造行為によつて生じた偽造公文書の内容を誤認したため、第一次偽造行為によつて生じた各偽造公文書と第二次偽造行為によつて生じた各偽造公文書とが同一運転免許証内に併存しているとの誤解に陥り、その結果第一次偽造行為によつて生じた各偽造公文書について、本来その成立を認むべからざる偽造公文書行使罪の成立を認め、且つ、併合罪の関係にある原判示第一、(一)の公文書偽造罪と同第一、(三)の偽造公文書行使罪とを牽連犯として処断するの過誤を冒したもので、この点において原判決には法令の適用を誤つた違法がある。しかし、原判決が、判示第一、(一)の公文書偽造罪と同(三)の偽造公文書行使罪とを牽連犯の関係にあるものとなし、重い後者の刑を以て処断すべきものとした上、これと判示第二の十六個に及ぶ道路交通法違反罪(懲役刑選択)、同第三の業務上過失傷害罪(禁錮刑選択)、同第四の道路交通法違反罪(懲役刑選択)とを刑法第四十五条前段の併合罪として処断していることに鑑みれば、右の違法は処断刑の範囲に差異を生じないのは勿論、具体的な宣告刑に影響するところがあるとも認め難いので、判決に影響を及ぼしていることが明らかではない。
四 更に、原判決は、罪となるべき事実第三として、反覆継続して自動車の運転に従事していた被告人が、原判示日時場所において自動車を運転中、原判示のような過失により林田克己運転の大型観光バスに自車を衝突させ、同バスをして同車の進路右側ぞいの電柱に衝突するに至らせ、よつて該衝撃により右林田克己及び同バスの車掌広木美枝子の両名に対し原判示各傷害を負わせた事実を認定しながら、被告人の右所為を単純に刑法第二百十一条前段に該当する一罪に問擬しているが右の如く一個の過失に基因する行為により数名に対し傷害を負わせた場合には、各被害者ごとに業務上過失傷害罪が成立すると共に、右各罪は想像的競合の関係にあり、刑法第五十四条第一項前段、第十条により犯情の最も重い罪の刑によつて処断すべきものであるから、この点においても原判決には法令適用の誤りが存する。しかし、原判決もこれを同法第二百十一条前段の一罪として処断していることが窺われなくはないから、右の違法は判決に影響を及ぼしていることが明らかではない。
進んで、控訴趣意に対し判断する。原審において取り調べた全ての証拠及び当審における事実取調の結果を検討し、これに現われている本件各犯行の動機、罪質、態様、原判示第三の犯行における被告人の過失の程度、よつて惹起せしめた結果、被告人の年令、性行、境遇、経歴等諸般の情状を考察し、殊に、
(一) 被告人は、第一種原動機付自転車についての運転免許しか受けていないのに嘗て貨物自動車を無免許で運転し、昭和三十七年十月十八日静岡簡易裁判所において道路交通法違反罪により罰金一万五千円に処せられた前歴があり、その後自動三輪車の運転免許試験を受けたが不合格となつたという経緯すらあるのに、大型自動車、普通自動車等を無免許で運転しようと企て、右無免許運転に対する交通取締を免がれようとする動機から原判示第一、(一)の運転免許証の偽造を敢行したものであること
(二) 昭和四十一年四月一日東京港運送株式会社に自動車運転助手として雇用された際、給与その他の雇用条件を有利にするため、大型免許を受けている旨いつわつて入社し、爾来同社から運転有資格者としての待遇を受け、正規の運転手に差し支えのあるときはこれに代つて大型貨物自動車等を運転していたところ、同年九月二十七日頃同社配車係員から免許の有無の確認のため運転免許証の提出を求められるや、入社の際の触れ込みを維持するために原判示第一、(二)及び(三)の各犯行に及んだものであること
(三) 本件運転免許証の各偽造の方法は、いずれも巧妙であつて、容易に偽造たることを看破し難く、原判示第一の各所為が公文書の信用を害することの多大であるのは勿論、道路交通法が運転免許制度を定めた趣旨を実質的に蹂躪するのに等しいものであること
(四) 原判示第二の無免許運転の犯行は、前後十六回の外数回にわたり、運転した区間も交通頻繁な東京都内を中心として相当長距離、広範囲に及んでいるのであつて、右各運転行為はその都度前記会社から命ぜられたものであるとはいえ、かかる事態を招いたのは、被告人が大型免許を受けている旨の触れ込みで同会社に入社したためであり、犯行の原因を作つた責任を挙げて被告人自身に帰せられるべきであること
(五) しかも、被告人は無免許で大型貨物自動車を運転中、交通整理の行なわれていない左右の見透しのきかない交差点において徐行しようとせず、右自動車のブレーキの利きが甘いことを知つていながら、交差点の約四メートル手前に接近するまで時速約四十キロメートルの速度で進行したという軽からぬ過失により、原判示第三の如く観光バスとの衝突事故を惹き起し、右バスの運転手に対し脳震盪症の疑、頸髄鞭打ち損傷の疑、腰部打撲症等の傷害を与え(同人はそのため七十五日間入院し、退院後百日以上経過してもなお通院加療中)、同じく車掌に対し脳震盪症、前額部打撲症、頸髄鞭打ち損傷の疑などの傷害を与え(同人はそのため五十五日間入院し、約二十五日間通院加療した結果ようやく全治した)るという重大な結果をもたらしたこと
(六) 右事故の発生については、前記観光バスの側にも、見透しのきかない交差点において徐行しなかつた過失があるけれども、同バスの進路は被告人運転の大型貨物自動車の進入して来た道路よりもその幅員が明らかに広いのであるから、右観光バスの側における不徐行の過失は被告人のそれに比較すれば軽微であること
(七) 被告人は、右の如く人身事故を惹き起しながら、右事故の発生の日時場所等を警察官に報告せず自宅に逃げ帰つていること等の諸点にかんがみると、被告人の年令、家庭の状況、原判決後被告人の雇用主東京港運送株式会社から本件交通事故の被害者両名に対し十二万円ないし十七万円の被害補償がなされていること、その他被告人に有利なあらゆる情状を斟酌してみても、被告人の刑責は重く、道路交通の安全に思いを致さず、自己本位的な考えから法規を無視した勝手な行動に走る被告人の反社会的な性癖傾向を矯正し、併せて一般的予防を図る見地から、この際被告人に対しては実刑を科するのが相当と認められるので、被告人に対し保護観察付ながら刑の執行を猶予した原判決の量刑は軽きに失するものというべく、破棄を免がれない。論旨は理由がある。
そこで、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十一条により原判決を破棄し、同法第四百条但書に則り、当審において更に次のとおり自判する。
原判決の過去に確定した事実(但し、原判示第一、(一)の事実中、原判決書二枚目表五行目及び六行目に二箇所にわたり「静岡公安委員会」とあるのは、「静岡県公安委員会」の誤記であるから、これを訂正し、同第一、(二)の事実中、「被告人榛葉峰男の自動車運転免許証の交付年月日及び有効期限に関する有印の公文書一通の偽造を遂げ」とあるのを「被告人に対する大型免許及び三輪免許についての自動車運転免許証一冊を作成して、有印の公文書二通の偽造を遂げ」と訂正する。)に法令を適用すると、被告人の判示第一、(一)の各所為及び同(二)の各所為は、いずれも刑法第百五十五条第一項に、原判示第一、(三)の所為は、その行使した偽造運転免許証に記載されている各免許の種類ごとに夫々同法第百五十八条第一項、第百五十五条第一項に、原判示第二の各所為は、道路交通法第六十四条、第百十八条第一項第一号、罰金等臨時措置法第二条第一項に、原判示第三の所為は、各被害者ごとに夫々刑法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項に、原判示第四の所為は、道路交通法第七十二条第一項後段、第百十九条第一項第十号、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するところ、原判示第一、(二)の各有印公文書の一括偽造の点及び同第一、(三)の各偽造有印公文書の一括行使の点は、いずれも一個の行為で二個の同一罪名に触れる場合にあたり、且つ、右有印公文書偽造と同行使の間には手段、結果の関係があるから、刑法第五十四条第一項前段及び後段、第十条を総括的に適用して、最も犯情の重い大型免許に関する偽造有印公文書行使罪の刑に従つて処断すべきものとし、原判示第一、(一)の各有印公文書偽造の点及び同第三の各業務上過失傷害の点は、いずれも一個の行為で二個の同一罪名に触れる場合にあたるので、同法第五十四条第一項前段、第十条により夫々犯情の重い大型免許に関する有印公文書偽造罪及び林田克己に対する業務上過失傷害罪の刑に従つて処断すべきものとし、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから、所定刑中原判示第二の各罪及び同第四の罪については懲役刑を、原判示第三の罪については禁錮刑を選択した上、同法第四十七条本文、第十条に則り刑及び犯情の最も重い前示大型免許に関する偽造有印公文書行使罪の刑に併合罪加重をした刑期内において、被告人を懲役壱年に処し、原審における未決勾留日数中参拾日を同法第二十一条により右本刑に算入し、押収してある運転免許証壱冊(東京高等裁判所昭和四二年押第二〇一号の一)は原判示第一、(三)の偽造有印公文書行使罪の組成物件であり、且つ、何人の所有をも許さないものであるから、同法第十九条第一項第一号、第二項によりこれを没収することとし、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により被告人にその負担を命じないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 栗田正 判事 沼尻芳孝 判事 近藤浩武)